久々に本題に戻ります。個人面談の目的の2つめ「自らの頭で考えさせる」。その最大の障害になっているのが「思考停止」である旨は述べました。そして思考停止は何も生徒さんだけの現象ではなく指導者側も含めた全ての人に簡単に起こり得るものだという事を実例を交えながらご説明してきました。
さて、それでは思考停止状態に陥っていることを自覚したとして、どのようにしたら思考回路を回せるか?という事に移ります。
どのようにしたら生徒さんの思考がフル回転状態になるのでしょうか?私は最も効果的なのは「質問すること」であると思っています。「はい!」という返事や「こんにちは!」といった挨拶等の条件反射的な反応と違い、質問された場合は答えを自分の頭で考えざるを得ませんから必然的に回答者の思考回路が働くこととなります。もっともこのあたりは指導者の先生方は日々実践されている分野かとは思いますのであくまでも参考程度にお付き合いいただければ幸いです。
さて、その質問ですがご存知の方は多いと思いますが2種類のタイプに分類されます。一つは「オープンクエスチョン」、そしてもう一つが「クローズドクエスチョン」です。オープンクエスチョンは答えが限定されない質問です。例えば「今日の練習はどうだった?」とか「この曲についてあなたはどう思う?」など質問された側が考えて自らの意見を回答として述べる形です。これに対してクローズドクエスチョンは「はい」か「いいえ」、又は「A」か「B」など答えが限定されている質問です。例えば「今日の練習は出席する?」であるとか「AとBのメトロノームどっちを使う?」といった感じの質問です。
この2つのタイプの質問。どちらが良いのでしょうか? 私の見解はそれぞれ長所短所が存在するため一概にどちらが良いとは言えないと思っています。要は2つを上手に使い分けることがベストであると思います。しかし前職の保険会社の時の営業教育ではとにかく「オープンクエスチョンで質問せよ」といった風潮がありました。そして実際その同僚や上司もオープンクエスチョンを多用していました。確かにオープンクエスチョンは回答者に自分の頭で答えと言葉を考えさせる他、質問者が想像できなかった回答者の本音が聞けるため非常に優れた面があります。ですからその効果を得たい気持ちはわかるのですが、この手法には欠点もあることに皆気付いていなかったように思います。このオープンクエスチョンは回答者の立場からしたら「とても答えにくい質問」なのです。
私が保険会社で営業をしていた時の事ですがある研修を受講し、終了した際に当時の上司に報告の電話を入れました。その際の上司の質問がこんな感じです。「研修はどうだった?」(これをうけ石川が回答)「そうか。どうしてそう思ったの?」(石川回答)「その他はどうだった?何か感じた事あった?」(石川回答)「なるほど、そうか。どうしてそう思ったの?」(石川回答)「了解。それを受けてどうしていきたいの?」…..こんな感じです。いかがでしょうか?この質問を受けていれば確かに私は研修の内容を瞬時に思い出し、答える内容を探し自分の意見を整理しながら答えます。なので「研修の内容の良い復習になっている」とも取れますが、実際それは質問者側の論理であって、聞かれて答える立場としては「何で1日研修をみっちり受けて疲れている状況で又その報告の為に頭を働かせて流れを説明しなければならないんだ」というのが当時の本音でした。実際「答えづらい質問だな~」と無意識のフラストレーションを感じながら報告していた事を覚えています。 上司と部下であれば、それでもこの流れで問題にはなりませんがこれが営業マンと顧客であったらどうでしょう?初対面の営業マンに上記のような質問をされ続けたら顧客は相当なフラストレーションを感じます。私が顧客であったら「何故こんな答えにくい質問に答え続けなければならないんだ!」となり商談終了にしてしまうかもしれません。答え易い質問をあえてして差し上げるのもトップセールスマンの大事な要素です。
さて、音楽指導の場にシーンを移してみるといかがでしょう?恐らく思考に慣れていない生徒さん達に対して例えば合奏の場で「いまのみんなの演奏どうだった?」といったオープンクエスチョンを投げ掛けたとして果たして反応があるでしょうか? さっと何人かの手が上がり「今のはAの打楽器が遅れていた」とか「Bの所の金管と木管の音程が合っていなかった」などの意見が次々と出てくるとしたらそのバンドは私の著書など全く必要のない位思考フル回転ポジティブ状態にあります。しかし多くの場合は投げかけても「シーン」とするのが一般的ではないかと推測しています。手を上げ発言する習慣の欠如。恐れ、恥ずかしさ等に加えやはり質問が漠然としすぎていて答えにくいのです。これでは思考は止まったままです。ではどういう風に質問していくかの一つの例を次回ご案内いたします。