前回はフェーズを見極める重要性をお話ししました。その中でフェーズ1にいる生徒さんが圧倒的に多い事。そしてその自覚が持てていない事について触れました。しかし中々自身が「正解だ」と思っている事を本来の正解に矯正する事は自分自身では難しく、客観的な視点に変える工夫が必要になります。

 私自身の学生時代の話をさせて頂きます。信州大学で交響楽団に所属しており、私自身はトロンボーンを吹いておりました。演奏会は年に2回。それぞれ毎回プロの先生に指揮者をお願いしています。

 私が3年生の秋の演奏会でお呼びした指揮者はアントニンキューネルという先生でした。吹奏楽の世界では古くから相当有名な先生だと思います。今から30年位前、確か武蔵野音楽大学の吹奏楽を指揮していらっしゃった記憶があります。この先生何が凄いって絶対音感による正確な音程感が凄いんです。なにしろ街中を歩いていて路線バスが鳴らしたクラクションに対して「あのバス音程悪いですね~」と言っていましたから(笑)。 そんな先生ですので当然ながら合奏はすぐに止められ、音程が悪いパートがつかまり、一人一人音を出させられます。「高い」、「低い」、「高い」、「まだ高い」といった感じで正確な音程になるまで突っ込まれるのです。

 この時印象的だったのは、音程が高いと突っ込まれて下げ続けている奏者が首をひねったり、訝しがってこちらを「本当?」という表情で見たり、といった光景があちこちで見られたことでした。そして1stトロンボーンを担当していた私にも当然ながら先生の厳しい音程の突込みが入りました。曲はブラームス交響曲第2番の緩徐楽章である第2楽章のフレーズです。H-durのメロディーで私のパートはファ(E)-ミ(D#)-レ(C#)-ド(H)という風にゆっくりと音階を下がってくるフレーズだったのですが、レである実音C#の音が「高い」と言われました。スライドを下げ再び出すも「まだ高い」、「高い」、「まだ高い」と突っ込れ続け、とうとう半音下付近までスライドが下がってしまったのです。この時他の奏者の気持ちが理解できました。私自身も首を捻って「おかしい」と思ったのです。

 この時何が起こっていたのでしょうか? 私の中には「ファ-ミ-レ-ド」という音階の音程イメージがあります。しかしその中のレが実際の正しい音程よりも高かったのです。しかしその時はまだその事に気付いていません。その状況で先生に指摘されるとどうなるか?スライドは下げるのですがもう一度演奏すると自分のイメージ通りの(間違っている)ファミレドがあるので無意識にそこに近づけてしまいます。つまりスライドは下げるが無意識に口を締めて結局イメージ通りの間違ったままの音程の高いレにしてしまっているのです。その結果レの音程は相変わらず下がっていませんから「まだ高い」と指摘され続けます。結果半音近くスライドを下げる事となり「おかしい!」と首を捻るのです。

 この突込みを受けて「え⁈こんな(低い)音程でいいの?」という音を出した瞬間先生に「それでOK」と言われます。そして自身は半信半疑のまま全体合奏に戻ってその音程で吹いてみると、正確な音程による透明感のあるブラームスに変身しているのです。練習後に録音した例のシーンを聞くと先生の指摘は正にその通りで、結局は自分自身の「レ」が高かったことに客観的に気付きます。そして指摘後の「え⁈これでいいの?」と思った音程が正確である事も併せて自覚するのです。この瞬間自分の「ファミレド」のイメージが正確なものに矯正されたのです。これがフェーズ1がクリアできた瞬間なのです。あとは練習のたびにその意識をすれば徐々に習慣化できるようになりますので、そんなに労力は必要ありません。何と言っても大変なのが「自身のイメージ(意識)の変化」なのです。

 大学生にしては何ともレベルの低い体験談で誠にお恥ずかしい限りではありますが、フェーズ1の克服の大切さについての実体験でした。明日以降に続きます。